こんにちは。grayn広報の中の人Cです。今回は初回のブログ『フィルム調達Tips』でご紹介した長巻(長尺)フィルムについて、掘り下げながら解説しようと思います。 まずは初回ブログの内容をおさらいしましょう。4. 長巻を使う 実はこれが最も原始的で最も手がかかる、最も安い方法です。100ft(30.5m)や400ft(122m)の缶入りフィルムを全暗の暗室やバルクローダーでパトローネやフィルムマガジンに詰めて使用します。36枚撮りのフィルムの長さはだいたい5ftなので、100ftの長巻からは20本、400ftからは80本とれます。また、36枚だけでなく12枚や15枚撮りのパトローネを作ることができるなど、使い勝手もいいです。例えば、grayn各大学や有志で共同購入すると、Fomapan200の100ft缶なら送料込みで1万円程度、つまり36枚撮り1本500円となります。 …という内容でした。今回はこれをより詳しく解説していきます。 ではまず長巻を使うことの「原始的な」部分について。広く使われている135サイズのフィルムは35mmフィルムとも呼ばれ、もともとはその名の通り幅35mmの映像用フィルムでした。このフィルムを使用する写真用カメラは1910年代には存在したようですが、大規模に使用したのは Leica が最初でした。これは映像用フィルムを横向きに流し、パーフォレーション(フィルムに空いた穴)8個分、映像の2コマ分を使って像を記録するものでした。Leicaがあまりにも有名になったため、「35mmフィルムの8パーフォレーション分」のフォーマットを「ライカ判」と呼ぶこともあります。ライカ判をはじめとする35mmフィルムを使用した撮影機材は小型軽量であり、以後の小型カメラのフォーマットとして急速に普及していきました。 さて、当時は写真フィルムとしての35mmフィルムは世に出てから日が浅く、パトローネ入りのフィルムがありませんでした。そのためContax, Leicaのような小型カメラを使用するために、映像用の長巻フィルムを買ってきて自分で必要な長さだけフィルムカセットに詰め替える作業を行っていました。このように長巻を使うことでおよそ100年前の写真の撮り方を追体験できるのです。画像: Kiev-Contax用のフィルムカセット さしずめ金属製の分解可能なパトローネといった感じのものです。カメラの裏蓋ロックに連動してカセットがカメラ内で開くという凝った作りになっているのが好きなポイントです。 次に「手がかかる」部分について。長巻フィルムは一般に缶に入った状態で買うことができます。時には遮光袋も使って厳重に包装された中身は取扱いに注意が必要です。もし缶を明るい部屋で開封しようものなら、たちまち中のフィルムが感光して使い物にならなくなります。これを避けるために、フィルムを缶から出して作業するときには暗室の中でも全ての光源を落として完全に真っ暗にした「全暗(Total Dark)」の暗室、もしくは手元を遮光できる「ダークバッグ」を用意して文字通り手探りで作業を行う必要があります。画像: 中の人Cが普段使用しているフィルム Double-X の缶。缶自体は恐らく2000ft用の大きいものです。もちろん中身を見たことはありません。 また、運が良ければ100ftの長巻から一般の室内灯(白灯といいます)下でもパトローネに詰めることができる機械(バルクローダー)があるかもしれません。もし発見したら活用してみましょう。画像: 暗室で発見された野生のバルクローダー ここへ缶に入っていたフィルムをはじめて詰めるときには全暗の暗室かダークバッグが必要です。 いずれにせよ、長巻をパトローネに詰めて使うには店で売っているパッケージを買ってきてカメラに装填するよりも一手間も二手間もかかります。さらに、このように詰められたフィルムは基本的に自家現像する必要があります。正直面倒ですね。中の人Cもそう思います。しかし趣味としては時間をかけるに値する楽しさであることは私が保証します。 最後に、長巻を使うことの「安い」部分について。長巻はパトローネ入りのフィルムに比べてパトローネ、フィルムケース、紙パッケージを用意しなくて済むため、メーカーにとっても安上がりになります。このため同じ製品を長巻で売ると、パッケージと比較して価格を抑えることができます。たとえばかわうそ商店さんではパッケージに入った36枚撮りのFOMAPAN200が1本1100円なのに対し、100ftの長巻は1缶11000円です。36枚撮りのフィルムが1本だいたい5ftですので、100ft缶からは36枚撮りのフィルムを20本も切り出すことができ、金額ベースでは半額になります。他のフィルムでも一般に長巻を使ったほうが安くなります。フィルムは消耗品ですから、同じものを使うなら安いに越したことはないでしょう。 ここまで中の人Cが考える長巻の魅力を3点お伝えしてきましたが、ここから少し長巻を使うにあたってのメリットとデメリットを書いて終わりとしましょう。 まず長巻を使うときのメリットには取り回しのしやすさがあります。通常のフィルムは24や36枚撮りが多いですが、長巻から自分で巻くことで好きな枚数のフィルムを作ることができます。例えば新しいカメラのテスト用に6枚、半日のお出かけに15枚などと、少量ずつ使うことができます。ゆえに、graynの撮影会で36枚撮りフィルムを 多い と感じた方にこそむしろ長巻をおすすめしたいです。(ハーフカメラを使っていれば36枚撮りフィルムでは72枚も撮ることになりますから、余計小ロットのフィルムが欲しくなるかもしれません) 一方で長巻を使うことにはデメリットもあります。最大のものは「長巻である」ことです...... 怒られそうなので説明しますと、使用に最低でもダークバッグが必要、自分でフィルムカセットや使用済パトローネに詰めなければいけない、100ftといった大ロットでしか買えない、というこれまで挙げてきたあらゆる面倒くささがそれにあたります。しかしこれらは自前の暗室を持つgraynの各サークル内に於いて、構成員同士で共同購入することにより解決できることが多く、そのうえ実際にかかる金額は参加人数分だけさらに安くなります。 以上に挙げたように、長巻フィルムを使用することには様々な面で魅力・メリットがあり、graynに参加している人々ならばデメリットもさほど大きくはなりにくい手法です。お気に入りの白黒フィルムができたらぜひ長巻を探してみて、あれば購入を検討してみてはいかがでしょうか? この記事で長巻に興味を持っていただけたら幸いです。以上、grayn広報 中の人C がお送りしました。